解散総選挙に際して

11月上旬の時点で、衆議院を解散するという噂は流れていました。しかし本当に解散するのか、半信半疑だった議員も多かったのではないでしょうか。

結局、憲法7条により衆議院は解散されてしまいました。

今回の解散、「今のうち解散」とか「アベノミクス解散」と言われておりますが、任期を2年も残して解散する必要性、意味はまったくありません。消費増税の延期についても、294議席も確保しているのですから、堂々と国会で議論して、延期すればよろしい。

今や昔の三党合意の附則を見てみましょう。

社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律
附 則
 (消費税率の引上げに当たっての措置)
第18条  消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3パーセント程度かつ実質の経済成長率で2パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
2  税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。
3  この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第2条及び第3条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前2項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。

すでに法律に経済状況の判断を行うと書いてある。わざわざ700億ものお金を使って解散する必要などありません。
「今のうち解散」と呼ばれるのも、来年から益々厳しくなる経済状況に気がつく前に解散して、これからの4年間を盤石にしておきたいという思惑が透けて見えるからではないでしょうか。
ご存知の通り、衆議院の解散については7条と69条に規定があります。

第七条  天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一  憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二  国会を召集すること。
三  衆議院を解散すること。
四  国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五  国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六  大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七  栄典を授与すること。
八  批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九  外国の大使及び公使を接受すること。
十  儀式を行ふこと。

第六十九条  内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

7条は天皇の国事行為を定めた条文でしかありません。内閣の助言と承認→内閣の最高責任者総理大臣がいつでも自由に制限なく解散できると解釈していいものでしょうか。

7条解散については「苫米地事件」に詳しく、現行では合憲とされていますので、条文を変更することなく違憲と言うことはできませんが、好き勝手なタイミングでの解散が出来てしまうことが、現在の政治に大きな影響を与えていることは間違いありません。

現在の改憲論では現状の首相が解散権を保持していることを前提として、明文化する方向のようです。

【参考】日本国憲法改正草案(自由民主党、平成 24 年 4 月 27 日)
(天皇の国事行為等)
第六条 (略)
4 天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負
う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。
(衆議院の解散と衆議院議員の総選挙、特別国会及び参議院の緊急集会)
第五十四条 衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。
2~4 (略)
選挙によって信任を得て、4年という任期を与えられるのですから、本当に国民に信を問わなければならない事態であると国会が判断したのであれば、69条で十分ではないかと思うのです。どうしても解散したければ、内閣不信任案を与党から提出し、可決すればよいのです。

69条に追記してみてはどうでしょう。

第六十九条  内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
二 内閣による衆議院の解散は、内閣の不信任決議案の可決、又は信任の決議案の否決された場合に限る。

実際のところは、首相が自らの手を縛るような改憲が行われることはないと思いますので、非現実的ではありますが、今回のような国民を置いてきぼりにした解散は、政治不信を助長するばかりです。